中国でオスのネズミの妊娠と出産が成功するも、世界で批判殺到の理由

実験用マウス
実験用マウス

動物実験と言えば、最近では痛みを感じるものを廃止したり、動物の事を配慮するような動きが世界で活発化しています。ただ今回の件は一線を画するもので、異質だと感じました。

なぜかというと、その実験の目的が何なのかよくわからなかったからです。通常は難病の治療や、人間が生きていく上で有益になる目的のために行われますが、オスのネズミにメスを合体させて子宮を移植して妊娠させる?一体なんの意味があるんでしょうか。

オスのネズミが妊娠ってどいういうこと?

この研究結果は査読されたものではなく(プレプリント)、「A rat model of pregnancy in the male parabiont」というタイトルで、Life Science Preprint PlatformのbioRxivに6月16日に掲載されたものです。著者は、海軍医科大学の教育機関である実験教示模範センター、海軍医科大学栄養・食品衛生部、海軍医科大学長海病院産科婦人科のLiu Yuhuanです。

論文ではこの研究を4つのステップに分けて紹介しています。まずにオスとメスのラットを縫い合わせる手術をして、血液を循環させることでオスの体内にメスの微小環境を与える「コンジョインラット」を作る。次に、その8週間後にオスの体内で子宮の移植をします。そして回復した後に移植したオスのラットの子宮に胚を移植する。最後に、発育21.5日後オスのラットの帝王切開にて10匹の子供を出産。この10匹のラットは成人(?)するまで成長した、と書かれています。

検査の結果、子供の心臓、肺、肝臓、腎臓、脳、精巣、表皮、卵巣、子宮には、目立った異常は見られなかったが、実験の成功率は非常に低く、3.68%だったそうです。縫い付けて合体させる時点で「キメラ」感がすごいんですよね。

賛否両論の動物実験

この研究と研究結果が、その倫理性について中国国内外で議論を呼んでいます。批判的な意見を述べている研究者たちは、「非常に作為的で不必要な苦痛を動物に与えており、生まれた時に男性と割り当てられた人の妊娠の可能性についてはほとんど何の示唆も与えていない」、さらに成功率の低さから、目的自体が遠い道のりだということを示している、との事。

個人的な意見を言えばまったくその通りで、人間が可能だとしても、性転換手術をしようと考える男性にしか・・・・今のところ意味がないのでは?と思ってしまいます。しかし、批判的な意見ばかりではありません。女性でも性転換を希望する男性でも、この研究モデルを使って、妊娠するために何が必要なのか?という事を少しずつ解明できるのでは?という意見です。

この論文は中国の学者や一般の人の間でも注目を集めていて、学者の中には無謀な生物学的実験が国の評価を貶めるのでは?という不安も上がっています。中国社会科学院(北京)の生命倫理学者である邱仁宗氏いわく、「実験に社会的価値を見出すことはできないし、税金の無駄遣い」との事。中国の生物学的研究が注目を浴びるのは今回が初めてではありません。

2018年には中国の研究者が初めてのゲノム編集による赤ちゃんの誕生を発表し、非常に非倫理的であると激しい非難をあびました。それ以降中国では研究倫理について政府に助言する委員会が設けられるなど、国内の倫理的ガバナンスを強化する動きが活発化しています。

論文の著者らは、『Nature』誌からの研究関連の質問に対するコメントを拒否していますが、原稿の中で、この研究が「生殖生物学に大きな影響を与える」可能性があると述べています。ただ、詳細は明らかにされていません。著者の一人であるZhang Rongjia氏は、発表後の査読サイトであるPubPeerでの公開声明で、この研究は「個人的な興味と好奇心から」行われたものであり、使用する動物の数を減らし、動物の苦痛を最小限に抑えるよう努力したと述べています。

オスの妊娠は自然界ではものすごく珍しく、タツノオトシゴやパイプフィッシュなどの一部の魚類にしか観察させていません。哺乳類はなおさらです。

中国の研究者達は哺乳類のオスにおける妊娠の可能性をさぐるべく研究しています。今回のオスとメスの結合モデルはパラビオーソと呼ばれ、動物が血液を共有できます。片方の動物から他方の動物に血液を注入してその効果を研究するための確立された外科的手法です。例えば、高齢のマウスから若年のマウスに血液を注入して老化のプロセスを研究できます。

血液供給の重要性と出生率の低さから、「ヒトにおける男性の妊娠は、現段階では実現不可能である」と、ZhangはPubPeerに書き込み、「今回の結果が正しければ、これは人間の男性の妊娠に対する死刑宣告に近いものです」と加えています。

しかし、他の研究者は、母親の内分泌系の重要性はすでに常識であると言います。
オーストラリアのシドニー大学を退職した研究者で、妊娠の生物学を研究してきたクリス・オニール氏は、「今回の研究で得られる知見は限られている」と言う。
このモデルは、事実上、女性の妊娠の生体外モデルであり、去勢された男性の中に女性の子宮と血液供給が存在するものである、と彼は付け加える。

少なくとも去勢した男性の中では、胎児を宿すことに対する男性の環境の根本的な敵意はないということです。オーストラリアのメルボルンにあるモナッシュ大学の生命倫理学者であるキャサリン・ミルズ氏は、

「押しつけがましい外科的介入は、人間に適用するには適していません。」

「これは、人間を対象とした研究を意味するものからはかなり離れています。ある意味では、これは動物モデルではなく、単なる動物実験なのです。」と述べています。

結局このオス・メス合体妊娠実験はどう評価される?

共同研究者のZhangは、Nature誌への電子メールで、「外部からの批判には、正式に学術論文を発表して対応したい」と述べ、研究の価値に対する批判についてはコメントしていません。

前述のオニール氏は、この研究が、妊娠の成功に不可欠な母親の血液中の栄養素やホルモンを特定するための新たな実験モデルになるかもしれないと述べています。また、人間の他の生殖研究にも影響を与える可能性があるという。

スウェーデンのヨーテボリ大学の生殖医療研究者であるMats Brännström氏は、トランスジェンダー女性への子宮移植の可能性をすでに検討しているグループがあると言います。

しかしそもそも、生まれたときに男性とされた人を妊娠させることに価値があるのか、という疑問もある。
「トランスジェンダーの女性が子供を妊娠させたいという限定的な用途はあるかもしれません」とミルズ氏は言っていますが、それ以外の用途はなんでしょう?

ここまで読んで思ったことは、最初に比べて嫌悪感は少なくなったけど、現時点で考えられるのは、不妊治療と女性になりたい男性向け、ということですね。

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